5月 4日(火)「みどりの日」「どうか日本に来ないでください!」

昨日の「朝の風」(赤旗コラム)に「独語で五輪中止アピール」が気になってネットで検索したところ早稲田大学の水島朝穂教授のHPで見つけました。以下に「訳文」をコピーして貼り付けます。

【訳文】

ドイツ語圏の皆さんへ

3月25日に日本でのオリンピックの聖火リレーがはじまりました。場所は、原発事故で世界的に有名になった福島です。もちろん鐘や太鼓の大騒ぎではじまりました。今回福島は、地震、津波、原発事故の三重の破局から復活した日本の象徴として悪用されています。今でも地域の町や村には至るところ破壊の爪痕、貧困と悲惨が見られます。ところどころの駅前広場などがきれいに再建されていて、聖火リレーのルートはそういうところだけ見せて、お茶の間のテレビにはきれいなところだけが映るように仕組まれています。

誰でも知っているようにこの聖火リレーなるものは、1936年のベルリン・オリンピックの盛り上げのために始められたものです。このいまわしい過去が今回は新たに、それも決してポジティヴとは言えない形に変容されています。かつては、ヴァルター・ベンヤミンの表現するところによれば、政治の美学化が試みられたわけですが、今日では、スポーツを通じて政治の商業化が推し進められています。有名芸能人やオリンピックのメダル保持者などの多いランナーの前には15台から20台にもなる巨大な宣伝カーが走ります。最初の車はコカコーラの広告で埋め尽くされ、その屋根には司会者が乗って、マスクをつけずに大声で「世紀の事件」を囃し立てています。トップを走る車はコカコーラ、トヨタ、日本生命、NTTといった最優遇の格付けをされた会社の宣伝カーです。

とはいえ、このスタートの儀式も大騒ぎのわりにはどこか暗い影がさしています。例えば、沿道の両側に立ってスマホで写真を撮っている見物客は、誰でも知ってのとおり、声を上げてはなりません。往来で手を振る人々も、心なしかいまひとつ気がのっていないようです。本当のところ、日本の市民のほぼ3分の2が、この点では各種世論調査がほぼ一致しているのですが、この夏のオリンピック開催に反対しております。反対のほぼ半分はさらなる延期を望み、残りの半分は、開催権の返上を求めています。

目下コロナ・パンデミックの真っ最中です。この数日の新規感染者数の増加を見ていると、第四波が来ているのは火を見るよりも明らかですし、波はそのつど高くなっているようです。にもかかわらず政府も、そしてスポンサー資本も、そして忘れるわけにはいきませんがメディアも、いかなる常識にもさからって、なにがなんでも夏季オリンピックを断行したいようです。

たしかに東京都、日本政府、IOC、そしてIPCは、外国からの観客を受け入れないことにしました。旅行産業はがっかりしているようですが。とはいえ、選手は来ます。コーチやトレーナー、そして取材関係者も来るでしょう。その数は数万にはなるはずです。飛行機に乗る前の隔離、飛行場での検査、また母国での検査証明の提示などなどの予防措置を取ったとしても、感染の危険がゼロになるということはまず考えられません。その上、日本の市民でワクチンを接種したのは、目下のところたったの0.8パーセントに過ぎません。主として医師と看護関係者、それに近いうちにアメリカに行く予定の菅総理です。ヨーロッパもアメリカも納入契約にもかかわらず、ワクチンに関しては自分たちの手元にとどめ、輸出を渋っているためでもあります。それゆえ、来日した関係者のたとえ一部であっても、ウィルスを吸い込み、そのまま自国に持ち帰る可能性はきわめて高いと言わざるを得ません。結論としては、今夏のオリンピックとパラリンピックが日本国内およびグローバルに感染の爆発的増大につながることになりかねません。オリンピックおよびパラリンピックは、やってはなりません。問題なのは人の命そのものです。国家の威信や経済的利益などは二の次のはずです。われわれはスポーツ関係者の理性に訴えたいです。また選手団を派遣する国々の世論に、この記事の場合にはドイツ語圏諸国の世論に訴えたいです。どうか日本に来ないでください!

スポーツにおいて実績を積んでいる国々のどれかひとつが、パンデミック状況を考慮して、選手団を派遣しないという思いきった決定をするならば、それはかならずや諸国民の間に連鎖反応を生み、JOC、IOC、JPC、そして東京都も、譲らざるを得なくなるのみならず、オリンピックとパラリンピックを―それが選手の方々にはどんなにつらいことであろうとも―少なくともこの夏に関しては、やめるべきだという認識に至るはずです。

2021年4月2日 東京

署名者:阿部潔(メディア論)、アライ=ヒロユキ(美術批評)、安藤隆穂(社会思想史)、井谷聡子(ジェンダー研究)、大久保奈弥(海洋生物学)、初見基(ドイツ文学)、川本隆(社会思想史)、三島憲一(社会哲学)、三浦まり(政治学)、水島朝穂(憲法学)、牟田和恵(社会学)、中野晃一(政治学)、中野敏男(社会学)、西谷修(思想史)、大貫敦子(ドイツ文学)、小笠原博毅(カルチュラル・スタディーズ)、佐藤学(教育学)、玉田敦子(フランス文学)、多和田葉子(作家)、鵜飼哲(フランス文学) (アルファベット順)

市民スポーツ&文化研究所

主に市民のスポーツ・文化活動からオリンピックまで、あらゆるスポーツ・文化(教育)に関する評論・講演・出版・企画・調査研究・振興支援活動を行っています。代表:森川貞夫(スポーツ社会学・スポーツ法学・社会教育・生涯学習専攻)